「ライフシフトと私」― 100年時代を生きる、もう一つのキャリアのかたち #2
第2回:50代からの不安、そして再出発
「あと1年で定年です」
人事部からそう告げられたとき、私は「さあ、次の仕事するか、」すでに3社から業務委託受けていましたので、前向きな気持ちではいたものの、実際にその日が迫ると、心はざわつきます。周囲は「お疲れさま」と声をかけてくれましたが、私の胸の内には言いようのない不安が広がっていました。
定年後の私は、役職を離れ、ひとりの社員として再スタートを切りました。プレッシャーや責任から解放された安堵感は確かにありました。でも、それと同時に感じたのは、これまでの「肩書き」がいかに自分のアイデンティティになっていたかということでした。
朝起きて会社に行く。会議で発言し、判断を下す。人から相談され、時に頼られる。そんな日々は、ある意味で「自分の存在価値」を日々確認させてくれるものでした。そのルーティンが変わった途端、肩の荷が降ろせて自分のこと考える時間が増えました。
そして、ふと思いました。
「私は、これからの人生で何をしたいのだろう?」
「“時間”をどう使うかという問いに、私はちゃんと向き合ってこなかったのではないか?」と。
そんな揺らぎの中で出会ったのが、『ライフシフト』でした。
人生が100年あるとしたら、定年は「終わり」ではない。むしろ、次の人生をどう設計するかが問われる起点になる。未来は今の延長線上にはない。本の中に書かれていたそんな言葉が、私の心に強く響きました。
私はあらためて、自分のこれからに向き合い始めたのです。
もちろん、答えはすぐには見つかりません。でも、「これから何を学ぼう?」「何を試してみよう?」と考える時間が増えただけで、未来が少しだけ明るくなった気がしました。
50代で感じる漠然とした不安は、悪いことではありません。むしろ、人生を再設計するために必要な「静かな問いかけ」だったのかもしれません。
次回予告:
第3回では、『ライフシフト』が語る“無形資産”の意味と、私自身がそれをどう捉え直したかをお話しします。